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「農業×観光」で切り開く街の未来★スポーツフューチャーセンターうれしの第1回セッション報告

2023年10月28日(月)に「スポーツフューチャーセンターうれしの」の記念すべき第1回目となるセッションを嬉野温泉駅前 観光交流施設 まるくアイズでおこないました。

セッションでは、冒頭に嬉野茶時から「旅館大村屋」の北川健太さんと「きたの茶園」の北野秀一さんに「農業×観光」の先進事例についてお話しいただきました。

「茶の木を育てて茶葉を収穫し売る」。このビジネスモデルで何百年も続く伝統産業である嬉野茶。

ペットボトル茶の台頭によって、一般家庭での茶葉の需要は落ち込み、また鹿児島や静岡といった大規模産地の生産拡大に加え海外産の茶葉も入ってくる時代にあって茶葉の価格は低迷し、斜面地が多い嬉野茶の生産現場では大規模化、機械化が難しい場所も多いことから厳しい経営を強いられる茶農家も多く、高齢化に伴い廃業される方も多い現状があります。

ビジットジャパンキャンペーン前後、嬉野の主産業である観光や窯業にあっても、海外や国内大手資本との価格競争により収益が減り厳しい経営を強いられたり廃業されるケースも少なくはありませんでした。

この苦境にあって、それまであまり交わることの少なかった旅館業、茶業、窯業の事業者の方たちは地域に目を向け、時には外部からの目を介在することによって、お互いの文化のポテンシャルに改めて気づき連携の歯車を回し始めるのです。
この取り組みが発展し、茶畑の中に場所を作り、肥前吉田焼で作られた茶器で旅館を介在した観光客にティーセレモニーをおこなう取り組みとなっていきました。

これまで、茶葉を売る商売であった茶業が、空間と時間をサービスすることはチャレンジの連続であったとお二人は話します。
旅館や飲食店、オフィスなどで来客に振る舞われるお茶は、ほぼ無料です。
0円である「お茶」の価値をどこまで高めていけるのか。
段階を経て、試行錯誤を繰り返すことで、今では茶空間体験が1名15,000円にまで昇華されました。

北野さんをはじめ茶農家は茶師となり、嬉野市内の複数の旅館や東京の高級ホテルでも茶の文化を広める活動をおこなっているそうです。

次にお話しいただいたのは、元サッカー日本代表の石川直宏さん。
石川さんは、現役引退後、FC東京でクラブコミュニケーターとして地域とクラブをつなぐ活動をされる傍ら長野県でNAO's FARMという農園を運営されています。

現在は、サッカーコート1面分(70アール)の畑にとうもろこしなどを育てられており、手作業での作業は自分と向き合う場面が多く、アスリートは向き合う力があるので向いているそうです。

農業に関わるきっかけとなったのは、FC東京のホームタウンでの農業体験があったからだとか。
たくさんの人と協力して収穫し、収穫した農産物を一緒にバーベキューにして食べるという、これまでのピッチを起点とした活動では味わえない経験に衝撃を受け、自分で農産物を作ったらもっと嬉しいだろうという発想につながったのだとか。

そんな中、コロナ禍が始まりつながりのあるサッカー選手たちは、試合ができないことで自分の価値を見失いそうになっていたそう。
コロナがいつまで続くか見えない中で、プレーでファンを喜ばせていたことが出来づらくなったため、価値の変換として農産物を育ててファンを喜ばせようということに行き着いたのだとか。

コロナ禍が過ぎ、現在では、畑を通じて現地の子供たちやファンの人たちとアスリートがつながる取り組みを始められているそう。

そこで感じたのは、自分のフィールドから越境し違う場所に足を踏み入れることで、新しい自分に出会えたり色々な発見や可能性と出会えるということ。

越境することで出会った知見や可能性を元のフィールドに持ち帰ることでイノベーションを起こしていきたい。イノベーションを起こすための議論や対話は、スポーツもまちづくりも一緒で、それぞれの関係性が良いものでないと結果として現れない。
そのために今からそれぞれの関係性を新たに作って、行動変容につなげていく、それが今回集まった意義になるといい、市がかかげているように「うれしいを、いっしょに」みんなで作っていければいいと思うと話されていました。

岩田美香さんは、女子プロレス団体「センダイガールズ」のチャンピオンとして活躍する女子プロレスラー。

もともと農業高校出身だった岩田さん。
東京にあるプロレス団体ではなく、地方にある団体であるということを生かしてプロモーションを考えたときに、仙台は水も空気もおいしし、プロレスラーの資本である体づくりのために米を作ろうよということになったそう。

種まきから、草むしりや収穫まで全部自分たちでやっていて、最初は、ファンの方や近場の方が買っていくという感じだったが、パックご飯を追加したりして通販で売っていくうちにだんだんと人気がでてきたきたそう。

今では、団体の事業の柱として試合会場で売ったり、大手ECサイトでも購入でいるようになっているそう。
さらには、飲食店でも扱いたいというお店が出てきて、全国に広がりを見せていて「農姫米」というブランドで展開しているとのこと。

職業柄、人を殴ったり蹴ったりしているので、農業を通じて自然と触れ合うことで、心の落ち着きを取り戻せたり、人間として成長できているなと感じているということでした。

農家のみなさんは高齢の方が多いにもかかわらず、プロレスで鍛えて体力がある自分たちよりも体力があり、何気なく購入している農産物のありがたさがよくわかるようになったそう。

農業単体だと「儲からない」だとか「昔ながら」だというイメージを持ちがちだけれども、「農業×観光」だとか「農業×スポーツ」に表されるように、別の要素が加わることによって新たな価値が生まれるのではないかと話されていました。

その後、今までの3組の話を聞いてみて「自分にできること」は何か、周りの人と考え、話し、共有し、内容の理解を深めました。


次の段階では、4~5人組に分かれて「10年後農業も観光も楽しめる嬉野に”私”ができることは?」という問いについて思いを話し合いました。

このあと、「ほかの人と一緒にどんなことができるか」や「どんな取り組みができるか」「自分がやりたいこと」を紙に書き出し、マグネットテーブルという手法を使って、「やりたいこと」が近い人や「一緒にやれそうなアイデア」の人、「自分の書いていることを取り下げてでも一緒にやりたいアイデア」を持つ人を探しグループを作ります。

グループができたら、集まったグループ内の意見を掛け合わせたらどんな取り組みになるか話し合います。
できあがったらアイデアを模造紙に書き出していきます。

出来上がったアイデアは全部で4つ。
グループごとに発表していきます。

最初のアイデアは、「嬉野の農業をしているおじいちゃんやおばあちゃんたちや街に住む人々の日常の小噺を4コマ漫画にして情報発信していく」というもの。
嬉野に住む人に注目して情報発信していくことで、「会いに行きたくなる市民」を作り、ファンが観光したくなる街につなげていこうというものでした。

つぎのアイデアは、「農業を楽しんでいる人たちの情報を発信していく」というもの。
後継者不足などで衰退の局面を迎えている農業だけれども、引退する農家のおじいちゃんおばあちゃんを指導者として雇って、若い農業をしてみたい人たちに技術を教えていったり、先人の知恵を借りながら特産物を作っていくことで、「楽しく農業ができる」ということや「美しい自然の中で農業ができる」ということを発信し、農業を持続可能なものにしていくというものでした。

つぎのアイデアは、「農業×スポーツ」で、アスリートが農業を楽しんでいる空間を作るというもの。
野球の九州独立リーグに来年から加入する予定で、嬉野市と武雄市をホームタウンとするインドネシア人を主体とした新球団の選手たちに、「農姫米」のように地元の人たちと一緒に農業を体験してもらって試合で販売するというもの。
また、センダイガールズの試合も同時開催して「農姫米」も販売してもらって、農業もスポーツも楽しめるイベントをやっていこうというものでした。

最後のアイデアは、「農業×筋トレ」。
農作業の活動量を見える化し、「この作業はここの筋肉を鍛えられる」や「今日の農作業の活動量はこれくらい」など「農作業はカラダにいいよ」ということを可視化して伝えていくというもの。
また、草むしりなどの単純作業にゲームの要素を加えて、楽しくトレーニングしながら農作業するという発表でした。

今回のセッションでは、①「農業×観光」の視点が共有でき②参加者全員が今まで話したことのない新しい知り合いができ③共にアイデアを出し合い掛け合わせていくことを学ぶことができました。

参加者からは、「農業×スポーツという視点を持ててよかった。人材不足をトレーニングと掛け合わせて解消するアイデアは秀逸だった。農業トレーニングの後には、嬉野温泉で疲れを癒していただくと観光にもプラスになる。」といった意見や、「近くに住んでいても今まで関わらなかった人たちの意見を聞いて参考になった。今後のアクションのきっかけになればいいと思う。」、「正解、不正解とかではなく、第一歩を踏み出した人たちがここにいて、これから街を変えていく大きな一歩になったと思う。」といった感想を話されていました。

この、スポーツフューチャーセンターという取り組みは、街の変革に対してすぐに成果が出る性質のものではないかもしれません。
ただ、今回の取り組みで、市民一人ひとりが自分事として街の問題に向き合う第一歩となれたと思います。
この第一歩が次の一歩につながり、長い道のりかもしれませんが気づけば街や人や産業が元気になっていたというとこまで到達するきっかけとして、今後もこのスポーツフューチャーセンターの取り組みを続けていきます。

次回のスポーツフューチャーセンターは、2024年1月25日(木)13:15~まるくアイズでの予定です。

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